佐喜浜八幡宮に囃し言葉が飛び交う
〜伝統を継ぎ、誇りを込めて舞う狂い獅子が町を熱くする〜
多くの民話と伝承に彩られた港町ー佐喜浜。
「深い海と険しい山の狭間にあるこの町」の信仰の中心が、総鎮守「佐喜浜八幡宮」です。
社伝によれば1233年に社殿が造営され、800年以上の歳月を経て、今も変わらず地域の暮らしと心を見守り続けています。
毎年秋、この八幡宮で最も熱気を帯びる祭礼―「神祭」が執り行われます。
その中心演目の一つが、佐喜浜名物「獅子舞」です。
全国各地で披露される獅子舞ですが、佐喜浜のそれはひと味違います。
「狂い獅子(暴れ獅子)」と呼ばれる舞は、獅子を猛獣そのものとして演じる迫力満点の演目。
桟敷に集まった地元の人々から、囃し立てる声がかかると、獅子は観客めがけて突進。
観客が獅子の頑張りに対して笑顔で応援の歓声をあげ、赤い棒を持った法被姿の男たちが獅子を制する。この一連の動きが舞台ではなく、町そのものを巻き込んだ劇場と化します。
裃(かみしも)姿の男性たちが行司のように立ち回り、時に獅子の暴れぶりに目を丸くしながらも、祭りの格式を粛々と守っていく様子がまた愉快。
佐喜浜の獅子舞には厳格な「型」がありません。
「こうでなければならない」という縛りはなく、舞台に立つ若者は、地域の大御所たちからそれぞれの流儀で技を教わります。
ある者は大きな身振りで舞い、ある者は獅子の「睨み」にこだわり、教わった「技」を自らに落とし込んで、それぞれが“自分らしい獅子”を見つけ、舞に魂を込めて演じ切ります。
この舞の裏には、世代を超えた真剣な対話と、教える側・教わる側の信頼が根づいています。数分間の演舞をつくるための練習や会話の時間こそ、地域の融和を育む大切な土壌なのかもしれません。
「獅子舞」や「俄」を見ると、佐喜浜町の祭り文化が確かに世代を超えて受け継がれていることが分かります。
それは、若者たちにとってかけがえのない体験でもあります。
自分の存在が地域から期待されること。大人たちが本気で励まし、応援してくれること。
それは、都市部ではなかなか味わえない経験かもしれません。
佐喜浜の伝統「獅子舞」
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