冬の室戸の食卓に並ぶ“スマカツオ”は、脂のりも旨味も抜群。それでいて手に入りやすく、本カツオより好きという人が多いという評判の魚。ごちそうが日常にあるという贅沢こそ、産地で暮らす人々のリアルな豊かさの一つです。
スマカツオ(ヒラソウダカツオ)は、サバ科ソウダガツオ属の魚です。
他の地域で「スマ」というと別の魚種を指す場合がありますが、室戸ではヒラソウダカツオのことを「スマカツオ」と呼んでいます。「スマカツオ」は地元では大人気で、室戸のご家庭でよく食べられています。室戸では、大敷網漁でスマカツオが漁獲されます、旬は冬。
地元では「カツオよりスマカツオの方が好き」と言う人も多く、しかも、たくさん獲れるため、室戸で暮らす人々にとっては、美味しくて手に入りやすい“日常のごちそう”。都市部で暮らす人々の中には「美味しいものは高い」という固定観念をもつ人も多いと思いますが、それを見事に打ち破ってくれる魚です。
旬の時期に脂がのったスマカツオは、藁焼きにしても絶品。「本カツオよりスマカツオの方がうまい」と語る地元の声も少なくありません。ある人はこう言います。「旬は小さいやつでもうまいよ。室戸のスーパーにも並ぶし、その値段を見てみてよ。まずは買って食べてみて。うまさにビックリするき」
もし冬に室戸を訪れることがあれば、ぜひ飲食店やスーパーで「スマカツオ」を探してみてください。地元の人に「スマカツオありますか?」と尋ねれば、あなたの見る目の高さに驚いてくれるはずです。そして、きっと喜んで室戸自慢の美味しさを語ってくれるでしょう。
室戸近海は、黒潮の流れ、急深な海底地形、海洋深層水の湧昇によるミネラル豊富な海域など、様々な好条件が揃う豊かな生態系がある特別な漁場です。だから都市部では味わうことのできない“特別な旬の魚”と出会うことができます。
私たちが伝えたいのは、地元の人々が日々の暮らしの中で大切にしている、けれど声高に語られることのない価値です。それは、自然の恵みを生活に取り込む営みであり、旬の素朴な楽しみ。大量生産や安定供給には向かないけれど、少量多品種だからこそ生まれる豊かさ。鮮度が落ちる前に味わえる、地産地消の贅沢。そうした“暮らしの中の価値”を、都会に暮らす人々にも知ってほしい。
そして、感じてほしいと願っています。
スマガツオ
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旬の時期
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「スマガツオ」と室戸のつながり
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室戸の美味しい魚
海洋深層水と豊かな自然の恵みが育む、室戸の魚 “なんちゃあない”という町にこそ、本当に美味しい味がある。 「室戸はなんちゃあない(なんにもない)」 それが祖母の口癖でした。でも、そんな祖母が元気だった頃、都会に遊びに来て魚を食べると、決まって「うもうない(おいしくない)」と、ぽつりと漏らしていました。 都会には、多彩な飲食店がひしめき、見たことのない食材も並びます。 けれど祖母にとっては、そんな華やかな食の世界よりも、“なんちゃあない”室戸の魚こそが、なにより美味しく、心の底から愛した味だったのです。 室戸の人は「なんちゃあない」と皆さん仰いますが、室戸には「いいもの・おいしいもの」が沢山あると私は思います。「なんちゃあない」っていうのは、「話題性」のあるものがないっていうことなんでしょうね。 そして室戸の人はみんな案外グルメだと思っています。いわゆる“室戸あるある”ですが、みんな地元の食材が大好きなんです。 進学や就職で室戸を離れる人々が、決まってまず「室戸の食が恋しい」と口にするほど、室戸の味は根強い郷愁となって人々に染みついています。 実際、室戸の漁港には、高品質で本当に美味しい魚が次々と水揚げされています。 その理由は、室戸特有の地形と、海洋深層水の恩恵にあります。 海洋深層水とは、太陽光の届かない深海にある海水のこと。 深海には太陽光が届かないため、光合成が起こらず蓄積された窒素やリンなどの栄養がたっぷり詰まっていて、それが室戸の東海岸沿いの海で湧き上がるため、海には常にミネラル豊富な海水が満ちています。 この栄養たっぷりの海水で育った良質なプランクトンを基盤に、室戸の海には豊かな生態系が築かれているのです。 その結果、室戸の魚は自然に身が締まり、国の海洋深層水研究の最適地として選ばれた室戸ならではの旨みが凝縮されていきます。 とくに春先、室戸の沿岸近くを通過するブリは、たっぷりと栄養を蓄え、「室戸春ぶり」として親しまれています。これはもう季節の風物詩ですね。 もちろん、それだけではありません。 下段の「室戸のつながり」でも一部触れていますが、室戸では一年を通して多彩な魚が獲れ、大敷網(定置網)だけで年間約150種が取引されるほどの豊かさです。 海洋深層水という、室戸史上最大の自然の恵みが育んだこの豊かな海。 それは、遠い昔から室戸に寄り添い、今日の食文化をかたちづくってきたのです。 「なんちゃあない」と言いながら、「いいもの」が沢山あるそんな室戸をつたえていきたい、私も頑張って紹介して、みんなに教えたいです。 -
カツオだけじゃない!
室戸の人は言います。 「室戸では本カツオより“スマカツオ”の方が好きな人が沢山いるよ“ハガツオ”とか“モンズマ”とかは食べたことある?」 高知県といえば「カツオのたたき」が有名なので、県外の人がカツオと聞いて思い浮かべるのは「本カツオ」だけかもしれません。しかし、有名ではない、メディアでは話題にならない美味しいものが産地にはたくさんあります。室戸にも名前の知られていない美味しい魚がたくさんあるのです。 室戸岬は、太平洋に突き出た地形で、黒潮に近く、昔からカツオ漁が盛んな地域です。そのため、室戸=カツオという印象が強いのかもしれませんが、室戸近海は、黒潮の流れ、海洋深層水の湧昇によるミネラル豊富な海域など、様々な好条件が揃う豊かな生態系がある特別な漁場です。 たとえば大敷網漁では年間に150種を越えるほど、さまざまな魚が混獲され、季節ごと旬の美味しい魚がうつり変わるのです。 だからこそ、声を大にして伝えたいのです。「室戸の魚は本カツオだけじゃない!」室戸には、カツオを含めて、それぞれに個性と旬の魅力を持った魚たちがいます。 今回は、その中から「カツオ」と名のつく、選りすぐりの美味しい魚を地元で親しまれている呼び方とともにご紹介します。 それぞれの魚がどのように美味しいかという詳しい説明は 下の「つながり」ページにありますので、そちらもぜひご覧ください。 ①カツオ 黒潮に乗って、室戸に“季節(春秋)の喜び”を運ぶ魚 ②スマカツオ 室戸ではカツオよりも人気?知る人ぞ知る冬の絶品 ③ハガツオ 旬が待ちどおしい!採れた日しか味わえない幻の魚の美味しさ ④モンズマ 全身トロ?身に浮き出た星の紋章が美味しさの証 室戸の人はこうも言います。 「本当に美味しい魚は、値段だけではわからない。知識がないとね!都市部では、値段と味が比例していないことが結構あるよね。肝心の“食材”以外にも費用がかかってるからなのかもしれないね。脂の甘さは直感的にわかりやすい美味しいさではあるけど、それだけじゃなくて、それぞれの魚種で違う“食感とか身の旨さ”を味わってほしい。室戸みたいな田舎に来たら、安価なものでも旬を知って食べることで、驚くほどの美味しいさに出会えるよ」 産地には、都会では知られていない魚や食材が、驚くほどの美味しさを秘めています。産地ならではの“少量多品種の魅力”はまだ広く知られていませんが、これは田舎暮らしの楽しみのひとつです。 都市部では「大勢の人に安定供給できること」が前提のサービスが中心にならざるをえません。また表面的な地方観光でも、知名度のない産品に触れる機会は限られています。 だからこそ、情報を知ったうえで産地に行って、“少量多品種の魅力”を堪能してほしい。“旬の美味しさを安価で味わう楽しさ”を、室戸でぜひ体験してみてください。 -
藁焼き
藁の瞬間火力で皮目だけを焼き切り、香ばしさと脂の旨味を引き出す「藁焼き」は、室戸に息づく理にかなった伝統調理法。鰹はもちろん、旬の地魚も焼きたて“温たたき”で味わえば、室戸ならではの特別な美味しさに出会えます。 高知県を代表する魚料理「鰹のタタキ」。その美味しさの核心にあるのが、「藁焼き」です。地元の米農家から頂いた藁を使い、職人さんが一気に炎を立ち上げる。 猛烈な火力で皮目だけを瞬時に焼き切り、内部はレアのまま。藁が燃える香ばしい煙が魚にまとわりつき、脂の旨味とともに口の中で広がるその瞬間は、まさに至福。 室戸のカツオ漁は江戸時代に始まって以来、地域の誇りとして育まれてきました。かつて漁師さんたちは、漁のあとに藁焼きで鰹を焼き、若手が先輩にふるまうーそんな光景が港のあちこちで見られたそうです。それは単なる食事ではなく、世代をつなぐ“昔から室戸で培われてきた伝統の継承”だったのです。 今ではその風景は少なくなりましたが、職人さんたちが「室戸の味」として、変わらぬ技と心で守り続けています。藁焼きは、漁師のまかないから始まり、祝いの席や祭りの場でも登場する郷土料理へと昇華しました。高知県の伝統料理「皿鉢料理(さわちりょうり)」冠婚葬祭や神事に供される大皿料理にも欠かせない一品。 室戸でも、地域の祭りや集まりで鰹のタタキが振る舞われ、人と人をつなぐ“絆の料理”として親しまれています。 室戸では、焼きたての温かいタタキを「温たたき(ぬくたたき)」と呼ぶ人もいます。脂ののった旬の魚に藁焼きを施し、焼きたてをすぐに口に運ぶ─。その瞬間、皮目の香ばしさと脂の甘みが一気に広がり、思わず目を閉じて味わいたくなるほどの美味しさです。 室戸「海の駅とろむ」では藁焼き体験ができ、焼きたての温たたきをその場で味わうことができます。 しかも、藁焼きにされるのは鰹だけではありません。室戸ではスマカツオと呼ぶヒラソウダカツオを「本鰹より美味しい」と語る地元の方も多くいます。グレ(メジナ)、ハガツオ、ブリなど、その日水揚げされた旬の脂の乗った魚が藁焼きで提供されることも珍しくありません。 私が2月、とある店で偶然いただいた「ハガツオのタタキ」。 藁の香りをまとったその一切れは、言葉に尽くせないほどの美味しさで、今も記憶の中に鮮やかに残っています。