高知・室戸の山間部に残る“幻のナス”
ボタナスで地域を未来へつなぐ日南の物語
高知県室戸市の中山間部にある集落・日南(ひなた)も、全国各地の村と同じように、少子高齢化・人口減少が深刻な課題となっています。
現在の日南の人口は51人。そのうち60代以上は41人で、全体の約80%を占めます。(令和5年現在)
取材をさせていただいたボタナス農家の谷口さんご夫婦(70代)も、集落では“若手”に数えられるそうです。
後継者不足により農家の数も減少し、現在ボタナスを栽培している農家はわずか6軒。
「伝統野菜のボタナスを残せるのか?」
というより、すでにこれは「日南地区の存続」の問題なのかもしれません。
日南の農産物は「美味しい」との評判をよく耳にします。
寒暖差のある中山間部で、海岸沿いの町よりも気温が3度ほど低いとのこと。
このあたりは“南国土佐”と呼ばれる地域ですが、冬は意外と寒くなるそうです。
美味しい野菜が育つのは、この寒暖差と、水(湧水・朝露・夜露)の影響が大きいのではないか──という声もあります。
日南に限らず、地方の農家さんは、畑や田んぼを取り巻く環境条件にとても敏感です。
周囲の自然環境や人工物が作物にどう影響するのか──それを熟知しているのが、田舎の農家さんたちなのです。
日南の生産者の皆さんは、地域の自然環境に精通した“腕利きの職人”とも言える方ばかり。
日々の作業、道具の手入れ、天候に応じた準備など、自然を相手にする仕事に余念がありません。
中には、80代で現役バリバリの“鉄人”のような農家さんも。
とはいえ、山に分け入ったり、重い機械を運ぶ作業などは身体的な負担も大きくなり、「しきび」や「黒糖作り」など一部の品目は取り扱いをやめる方も出てきている状況です。
このままでは、日南の農家さんが育てる中山間部の“自然の恵み”も、少しずつ減ってしまうかもしれません。
室戸で地元の産品を取り扱う、道の駅キラメッセではオープンした約30年から比べると、扱う農作物の種類は約30%まで少なくなってしまっているそうです。
全国的にも状況は厳しく、現在、全国の市町村の50%以上となる885の自治体が“過疎地域”に指定され、国土の60%以上が該当しています。
そこに暮らしているのは、全人口のわずか9%。
今まで「当たり前」だったことが、なくなっていく──
その変化は、“ドカン”と音を立てて起こるものではありません。
気がつかないうちに、少しずつ、静かに、いつの間にか……進んでいくのです。
しかも、それは“知らない町”で、“知らない間”に起こっていること。
もしかすると、どこかで
「ボタナス、売ってないのね……」
という声が聞こえる日がくるかもしれません。
その時にはもう、ボタナスだけでなく、たくさんの“こと”が失われたあとなのかもしれません。